語るに足る、ささやかな人生 ~アメリカの小さな町で

今の日本でアメリカを熱狂的に好きだ、憧れがあるという人は減っているのではないかと思う。
1971年生まれの私から見ると、アメリカンカルチャーに魅了された人というのは、もう少し上の世代だ。

私が初めてアメリカに行ったのは、30歳の時。最初に触れた外国がアメリカ西海岸。
残念ながら旅行ではなくて、本社への出張だった。

私が通っていた英語専門学校には、アメリカが好きだから英語を学んでいるという同級生がかなりたくさんいた。
洋楽が好き、アメリカ人が好き、ハリウッド映画が好き…という子たちだ。

私がその専門学校を選んだ理由は、もっとも受験日が早く、仕事をする上でつぶしがききそうで、就職率は100%で、且つ家から自転車で通える距離だったというだけであり、正直なところ英語にもさして興味がないし、アメリカにはもっと興味がなかった。(というか、海外に全く興味がなかった)

それでも実際にアメリカに行ってみると、驚くほど見たことのある景色やモノが多いのにびっくりした。
私たちは意識するとしないに関わらず、相当アメリカの生んだものに触れる機会があるんだなぁと初めて知った。

人懐っこく、親切で、明るくて、大雑把で、家族を大事にするアメリカ人の同僚や取引先の人たち。
いつでもそうなのだが、異質のものや人への興味は尽きないし、その国民性には魅了された。

(そのように最初の海外体験がアメリカ西海岸だったおかげで、私は今でも欧米人というのはいつもフレンドリーで明るいというイメージを拭えず、東海岸のクールな雰囲気やヨーロッパの店員のあまりの愛想のなさに今も慣れない)

もちろんアメリカは良いところばかりではない、911後のアメリカは、オフィスの中も外もあちこちで星条旗が飾られ、その強烈な愛国心は心からの愛国心なのか、単に本土を攻撃されたというプライドなのか、その遮眼帯をつけられたような彼らの様子と星条旗を見る度に私は心が冷えるものを感じた。
これまでアメリカが世界の警察を気取りやってきたことを考えると、一方的に怒ることなのかな?とアジア人の私は感じるからだと思う。

この「語るに足る、ささやかな人生 ~アメリカの小さな町で」を読んで、ふと思ったのは、アメリカ人というのは、リラックスしていると本当に気持ちの良い人間で付き合いやすい人たちなんだと思う。
ただ、これが緊張モードに入るとどうもやりすぎてしまって、頭に酸素が回らなくなるのだな。
クールダウンがうまくない。

この本を読んで、久しぶりに、そうだよな、アメリカってどこか根底にとても健全な部分があって、やっぱり魅力ある国なんだよなぁって思い出した。

ストックオプションで儲けた後のEarly Retirementのゴールに思い描いているのは、聞いてみるとだいたい誰もがこういう暮らしのようだ。

ここに出てくる人たちはみんなRetirementを待たずに最初からその暮らしの中にいる。
なんだか漁師の話のようだなとも思う。

私はこの本を読んで、ケルアックの「オン・ザ・ロード」を読み返したくなってしまった。そんな1円にもならない寄り道ばかりしているから、きっと私にEarly Retirementなんて道はないのだ。

多分私は生まれ育った地域から歩いていける場所に今も住んでいて、近所のいろいろな世代の人たちや地域のお店との交流もあるんだから、スモールタウンの住人にかなり近いとも言えると思う。
そして私はそういう平淡な毎日を愛していて、わりと満足して暮らしている。
この本に登場するスモールタウンの住人同様に。

Everybody knows everybodyという言葉を、僕はどのスモールタウンでも聞いた。その回数は、今までめぐってきた町で出会った人たちの数そのものに相当する。
 多くの場合、この言葉を人は自嘲ぎみに口にするのだが、しかしその根底には、安心感や自信が存在していた。田舎だから社会が狭いと同時に、狭い社会だからこそ、人間関係の基本というものが豊かに広く実現されるのだ。

 しかし「退屈を受け止めている」という予想だけは、まったく当たっていなかった。むしろ僕の受けた印象は「都会の人の方がずっと退屈している」というものだった。スモールタウンの人たちは、自分が背負う町での役割の数がずっと多く、しかもそれを他者の手を借りずにこなさなければならないため、実際のところ退屈しているような暇はなかった。

老人が捨てられているということは、ディクソンはスモールタウンとしての機能を、うまく果たせていないのだ。経済も町のサイズも規模はスモールタウンなのに、社会構造だけ都会を真似て失敗したことを、それは物語っていた。彼女はたばこをさかんに吸いながら、話を続けてくれた。
「大きな店ができるまえは、ダウンタウンの店はすべてファミリー経営されていたのよ。町の人はみんな親友。みんな顔を知ってた。それなのにこんなに廃れちゃって…。私は今の若い子が怖いわ。彼らに見られると、そのまま襲われそうなほど怖いの。この町にはまだ、犯罪はないのよ。でも、犯罪の影がしのび寄っているのはわかるわ。廃れた店に穴ができて、そのなかに影が入っていくの。郊外もそう。綺麗な家が多いけれど、そこももうじき影になるのよ」

図書館で借りてあまりに気に入ってしまい購入。
すでに絶版となっており、おそらく著者が亡くなっていることもあり、Used Amazonでの文庫版はプレミア価格。
私はハードカバー版をUsedAmazonで入手しました。

旧訳版「路上」と青山南氏の新訳版があり、私は新訳版が好きです。

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