講演会:すべては『好き嫌い』から始まる 楠木建

「ストーリーとしての競争戦略」で有名な楠木建先生の講演を聞きに、丸の内の慶應夕学50講へ行ってきた。

講演タイトルは、「すべては『好き嫌い』から始まる」。

ユニクロのライフウェアが大好きという先生は、ユニクロのTシャツにデニムで登場、よく似合ってらっしゃっていて、素敵だ。
それより何よりとにかく声が素敵なのに驚かされた。
当たり前だが、本を読んでいるだけでは、こういうのはわからない。

先生の専門分野は「競争戦略」。
まず、「戦略」とは何か?
それは「競合他社との違いをつくる」こと。

Operational Effectivenessというのは、Betterより良いことだけれど、違いではない。Strategic Positioningというのが違い(Different)だという話で、アパレル業界の例を挙げられる。

アパレル業界は一般に、シーズン前にモノを作りはじめて、勝負を掛ける。
だから、当たり外れが大きい。
ギャンブルのようなものだ。(先生は競馬で例えられていた)
そんな業界の中で、ZARAは売れているものを見極めてから造って、売るという戦略を取っている。
普通のアパレル企業にはそんなことはできない。これができるのは、製造・流通、販売すべてがダントツにfastでなくては実現できない。
これが彼らの「違い」なのだ。
第3コーナーまできて、馬券を買い勝負を掛けるようなもの。

一方で、ファーストリテイリング(ユニクロ)は全くちがう。
彼らは、いわば牧場から自分たちで馬を育て、場合によっては牧草も自分たちで育てるというような企業だ。
素材開発から入り、3年後に販売することを計画する。この素材なら絶対に売れる!という自信があるので、大量に布地を買付け、外注に大量に生産を依頼することができるから、素材の良さにも関わらず、一つ一つのものを安価に作ることができる。
完全にプロダクト・アウトのアパレル企業だ。

両者は全く異なるスタイルを持つアパレル企業だが、どちらも現時点で間違いなく業界の勝者である。
勝者は一社ではない商売がアパレル業界なのだ。

この「違い」が作れる経営者というのが、センスのある経営者である。

「センス」と対になるのが、「スキル」である。

「スキル」とは、努力で伸ばすことができ、さらに伸ばす方法が必ずやどこかに存在する。
スキルの特徴は、見せる、示せる、測る‥ことができるものだ。
ここでの例は、国語、算数、理科、社会といったようなものだった。

一方で、「センス」とは、投入努力と成果の因果関係が存在しない。
簡単にいうと、頑張れば伸びるというものではない‥ということだ。
ない人はないままで終わってしまう。
例としては、異性にモテる‥というようなことだ。
「センス」は他人からのフィードバックや教わるのが難しいというのもとその特徴としてあげることができるだろう。

センスのような言語化できないものが、これからビジネスに必要であるというのは、山口周氏の「世界のエリートはなぜ『美意識』を鍛えるのか?」とも共通している。(この本もすこぶる面白い)


言語化できるものというのは、誰が見ても正しいもの(良し悪しの「良し」)となってしまいがち。
「良し悪し」は誰にでもわかるので、そうなるとすべての戦略が同じになってしまい、競争力の厳選となる「違い」が生まれてこないのと、みんな同じところを目指してしまうので、いわゆるレッドオーシャンになってしまうということ。

ということで、言語化できないことこそ、実は大事。それを大事にできる経営者が大事だということ。

私自身も様々な企業を内側から見てきて、仕事熱心でスキルアップに熱心だが、途中で詰まってしまう人材というのを何度も見てきている。
新しい発想ができない、ビジネスが作れない、単純にいうと商売下手なのだ。
「ピーターの法則」ではないが、こういった人が上の役職にとどまってしまうことで、下からもセンスがある人が出てこない。
スキルがあって、センスがない人というのは、同じような人を選んでしまうから、悪循環になる。

とはいえ、企業にはスキルも当然に必要。担当者の持つスキルと、経営者のもつセンスの掛け算がその企業の成果につながるというのは当たり前のことだ。

楠木先生の見立てでは、いわゆる戦略のある一流経営者、つまりセンスのある経営者というのは好き嫌いがとてもはっきりしているということだ。
楠木先生と一流経営者との好き嫌いの対話がまとめられているのが、以下の2冊。
箇所によっては声をあげて笑ってしまうぐらい面白い。
(個人的には、最初の「好き嫌いと経営」のほうが好き。)

‥が、一方で今の世の中は、「好き嫌い」よりも「良し悪し」が優先されている。それは違うのではないか!というのも、この講演の中で大きく取り上げられた。

さて、センスは磨けない。
だから、諦めてね。さようなら‥という話でもなく、自分のキャリアを考える上で、まずセンスの前提となる自分の「好き嫌い」をどう探していくのか?というのが後半の大きなテーマ。

これについては、楠木先生ご自身のキャリア体験とともに語られていった。
学生時代の柔道部の話、プロのミュージシャンを目指した話など、そのあたりのお話も非常に興味深いのだが、書き起こしきれないので結論を述べると、具体的に行動を起こし、それに対して自分の「好き嫌い」を論理化し、そして抽象化して、では、こっちはどうだろう?とまた具体的な行動を取る、この往復運動で自分自身の「好き嫌い」のツボを見つけていく。

先生自身も冒頭に述べていたが、先生の話も本も、即効性の解決策はない。
話はわかった‥なるほど‥と思う。
でも明日から、じゃぁ、私はどうすればいいの?というのは、自分で考えるべきなのだ。
結局それができなければ、スキルだけ身についても活かせることもないだろうし、身につけるスキルも意味もないものになるのだろうと思う。

スライドはとてもシンプルに作られていて、時折散りばめられるマンガのコマに、私の大好きな競輪ブログ「穴屋の競輪ブログ ふぬ競
ふぬ競 第二章」を思い出させた。
このテクニックプレゼンに使うのありなんだー。
私もどこかでやってみよう。

シンプルでわかりやすいけれど、ものすごく考え抜かれたプレゼンとそのスタイルもとても参考になった。

プレゼン内で紹介されていて、とても興味深そうだった以前の著作。こちらを早速Kindleで読み始めた。

慶應夕学50講への講演は、ちょくちょく行っているのだが、これだけ、聴衆の笑いの多い講演会は初めてだった。
2019年度の下期はこの後3つの講演会を予約しているけれど、これを超える面白さの講演会に巡り合うのはなかなか難しいのではないかと思っている。

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