Book Review : 本を読んだら散歩に行こう

本は私が必要とするそのときまで、じっと動かず、静かにそこで待っていてくれる。人間は信用できない。信用できるのは、本、それから犬だけだ。

P4 はじめに

翻訳家の村井理子さんの文章が好きで、目につくとあれこれ読んでいる。特に黒犬ハリーが出てくるものと介護にまつわる話題のエッセイが好きだ。彼女が翻訳したものも何冊か読んでいる。
2022年3月の読書会では、彼女が翻訳した「人間をお休みしてヤギになってみた結果」を課題本に取り上げた。

第16回読書会(サードプレイス)開催報告「人間をお休みしてヤギになってみた結果」編

今回読んだのは、2020年7月から2022年1月に書かれた本にまつわるエッセイ「本を読んだら散歩に行こう」

コロナ禍の閉塞感が文章のあちこちに顔を出す。
フリーランスの翻訳家という基本的に一人で進める仕事だから、さほど苦にはならないだろうと思っていた著者が、自分で望んで引きこもるのと、強制的に引きこもらされるのとは大きく違うと気づく。
気がつけば、文章が書けないという日までやってきた。

ましてや10代の双生児の子育て、義両親の介護もあり、これまでの日常生活の段取りもどんどん変わっていく。

そんな日々の話から、子供の頃の話などあれこれと話題は飛ぶ(だってエッセイだからね)
どれも興味深い。

中でも強く共感したのが、辛いシーンの多いテレビが見られない、特に動物が不幸な目にあうシーンが見られないという「十回目の三月十一日に愛犬の横で流す涙」。
私は子どもの頃から、これが苦手。最後ハッピーエンドだとわかっていても、途中の辛いシーンがだめ。子どもの頃から、「野生の王国」とかすごく苦手。
ちなみに格闘技系は大人になってからダメになった。人が殴られたりしているのを見て楽しいというのがよくわからない。

多分テレビを自宅に置かないというのも、音がうるさいが苦手というのも大きいのだが、いきなり苦手な場面が予告なく表れる確率が高いというのもあるだろう。

50歳前後でいきなり世の中の景色ががらりと変わる「四十七歳でいきなり辿りついた別世界」は、最近私も全く同じことを感じるので、これまたとても共感した。
(著者と私は、ほぼ同じ年齢で、恐らく生まれ年はちがうが学年が一緒というやつだと思う)

紹介されている本は全体的に、コロナ禍というのもあるのか、掲載媒体への配慮なのか、軽くて読みやすそうなものが多い。
出版社がかなりバラエティに飛んでいるのも、著者の読むジャンルの広さを感じせる。

読みたいなとピックアップしたいのは、以下の3冊。

出版翻訳家なんてなるんじゃなかった日記

イン・マイ・ライフ

にぎやかな落日

年齢が近く、小さい頃からあまり身体が丈夫ではなく、微妙に複雑な家庭に育ち、そして黒犬と本をこよなく愛するという、自分との共通点の多い著者のこのエッセイは、週末の温かい日に縁側で読み終えた。

あちこちに登場する黒犬(おそらく著者の愛犬、ハリーの絵)のイラストも可愛くて、とても気持ちの良い読書体験だった。

著者は「普通の家がいい」と本書の冒頭で書いている。ああ、わかる。わかります。両親の気配のある家、兄弟姉妹の賑やかさが聞こえてくる家、犬や猫や鳥の気配のある家、おばあちゃんの穏やかさ、おじいちゃんの厳しいけれど優しい笑顔のある家。いつも、なにか美味しい食べものがある家、冷えた麦茶が美味しい家。そんな家に憧れていた。そんな家に生まれたら、今の私はもう少し素直だったんじゃないだろうか。

p114 普通が一番幸せという言葉の重み

こんな感じで、なにもできないときに、普段気になってはいるけれどもできていないことを、自分を奮い立たせるようにしてやっていくことで、私は復活できるようになった気がしている。もういい年なんだから、自分の機嫌は自分で取ってやらないとダメだよね。そうだ、そうだ。私は立派な大人になりたい。切実に。落ち着きたいね。そろそろ。

p150 筋金入りの取り越し苦労からの脱出

ちょうどこの記事を書いているときに、著者のロングインタビューを発見したので、備忘録としてこちらに記述。

【村井理子ロングインタビュー前編】「赤川次郎を知り、椎名誠に恋をし、ブッシュを追った」、その半生とカルチャーを振り返る

【村井理子ロングインタビュー前編】「赤川次郎を知り、椎名誠に恋をし、ブッシュを追った」、その半生とカルチャーを振り返る

【村井理子ロングインタビュー後編】「子育てってひたすら傷つけられるんです」。“親離れ”への戸惑いと、自分を守るための方法

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