夕学五十講とは、慶應丸の内シティキャンパス(慶應MCC)が主催する定例講演会で、年間で50講演を丸の内で開催しています。
平日の夕方、丸の内というのも私にはとても便利で有り難いし、かなり面白い顔ぶれの方が講演をされるので、定期的にチェックして時間と興味があえば聞きに行っています。
2015年前期(4月~7月)は以下の4つの講演を聞きに行ってきました。
個別に感想を書きたかったのですが、ちょっと時間が見つけられないので、駆け足でその印象を記録しておきます。(引用部分は慶應MCCのサイトに掲載されていた紹介文です)
「イスラム国とは何か―日本と中東の新未来」
山内 昌之
東京大学名誉教授
イスラム国が過激派組織であることには間違いない。しかし、彼らはなぜ生まれ、どうして世界は彼らを制御できないのか。中東・イスラムの歴史に遡った正しい知識と判断が求められている。中東・イスラム地域研究の第一任者で歴史学者の山内教授が解説する。
ちょうどISILによる日本人人質事件が2015年2月に結末を迎えたため、その少し後のこの講演を聞くことで、いったいイスラム国というのはどういう成り立ちで、どうしてこんなことになってしまったのか?という話を聞くことで非常に頭の中が整理されました。
中東の話は、新聞で見かける度に兼ねてから読んではいるのですがどうも宗教の絡みが分かりにくく、なかなか整理できなかったのですが、今回の講演でそのあたりがよく理解でき、また地政学的な問題もスッキリと理解できました。
また、山内昌之教授の中東文化や歴史への尊敬の念がよく伝わってくる人間味あふれる講演会でもありました。
1つのことをとことん突き詰めて研究する人たちって、本当に魅力的だなぁ…と感じさせられました。
地図を手元で参照しながら学ぶのってやっぱり効果的で理解しやすい。子供の頃にこういうことに気づいていれば、私の極端な地理嫌いもなおっていたかしら…と。
「資本主義の終焉と歴史の危機」
水野 和夫
日本大学国際関係学部 教授
ピケティよりも早く資本主義の危機を提唱した水野教授。長期間のゼロ金利。バブルのツケをバブルで支払うような危険な循環。資本主義の死を思わせる状況に陥った世界経済は破綻から逃れることができるのか。はたして日本再生の処方箋はあるのか。指針を聞きたい。
長いスパンで歴史を眺めることで、資本主義がもう終わりとなっていることを解き明かした講演でした。
話自体は分かり易く面白かったです。
講演タイトルと同じ新書が2014年にかなり売れたので、恐らくその内容をベースに講演されたのだと思います。
私自身が経済の話にあまり強くないというのもあるのですが、講演内容がかなり行きつ戻りつで、資料も飛び飛び、今どこの話なのか?というのがなかなか分かり難い点が個人的には辛かったです。
多分、編集者の手の入った本のほうがきちんとした流れがあり、講演よりわかりやすいのではないかな?と思いました。結構な数の人が寝ていました…。
ちなみに私の隣の方は、退屈してしまったのかスマホいじりまくっていて、照明を暗くしているなかでスマホ使われるとものすごく明るくて目立つので、その光がチラチラ入ってきてつらかった。
通話はもちろんだけれど、できればこういう場は操作も禁止してほしいなぁ…と。
「日本の美、世界の美」
千住 博
画家・京都造形芸術大学教授
海外から見るからわかる良さがある。古来より自然と共に生き花鳥風月を愛でてきた文化から生まれた日本の美は世界の人々の目にはどう映っているのか。アートの一大集積地、ニューヨークにアトリエを構え創作活動を行う千住氏ならではの視点から芸術について語って頂く。
ほとんど聴衆は女性。
こんなに女性の多い夕学50講初めてでした。
まぁ、それもそのはず、壇上に現れた千住博氏の品の良い男前っぷりったら、すごいオーラです。
若い頃から、枯れ専と友人たちから揶揄される私などは、完全にその場で恋に落ちました。
いや、マジです。
全く原稿を見ることもなく、流れる様にお話をされ、スクリーンには千住作品とその他にも美しい絵画が次々と表れるという、まさに至福の時間。
日本画は全て自然の素材を使っている。オールナチュラル。天然素材。(チベットの砂絵以外には他にない)
これは日本画の発する大きなメッセージであるということを初めて知って、それも洋画と日本画の一つの区切りなのかしら?とか、現代アートの出発点というのは、写真ではできないことという話に、なるほどと大きく頷いたりとか、学べることがたくさんありました。
講演を聞いていてはっとしたのは、自然の中にある静寂感というものに自分はすごく惹かれるらしいということ。
だから、代表作品であるウォーターフォールにはとても心惹かれるし、人間でいうと寡黙で集中力のある人に感銘を受けることが多いのか…ということに気がつきました。
「日本はローカル経済で甦る」
冨山 和彦
株式会社経営共創基盤 代表取締役CEOGDPと雇用の7割を占めるローカル経済こそ日本活性化のカギ。更にG(グローバル)とL(ローカル)の違いを理解すれば問題の実像と対策も見えてくる。41社を支援した産業再生機構清算後も、民の立場で企業再生・支援に携わる冨山氏が日本経済の再生に向けてエールを送る。
どれも面白かったが、今期一番面白かったのは、この冨山和彦氏の「日本はローカル経済で甦る」だった。
自分の書いた講演メモもA4の紙二枚びっしりマインドマップ。
いわゆる文化教養の方というよりも、本当に現場のビジネスマンという方のためか、慶應MCCの顧客層に合わないのか、空席が目立ったり寝ている人がいたのが本当にもったいないと感じました。
とにかく論旨が明確で、くっきりはっきりしていて、仕事のできる人が持つ独特の明るさがあって魅了されます。
まぁ、ボストンコンサルティングのご出身ですから当然プレゼンテーションも上手です。
地方現場に身を置いて、その企業の再生で陣頭指揮を取っている人なわけですから、何しろ話の内容が実体験に基づいていて面白いのです。
グローバルとローカルというのは経済圏の違いを指していて、いわゆるグローバル企業(G)は、大企業で商圏が広いため、製造拠点を日本に置く必要がない(日本から輸出させるより、人件費も送料も安い海外に置くほうがメリットあり)。
そしてこの手の会社は非常に生産性が高い。
日本の企業は一般に生産性が低いと言われるがそれは、日本のローカル企業の話。
ただし、この手の企業はリーマンショクなどの世界経済の波に非常に影響されることが多く、予測不可能なことが多い。
一方、ローカル地方企業(L)は、労働生産性が低い。
ここを改善するだけで、だいぶ変わってくる。
日本の中小企業は10%が製造業で、90%がサービス業だから、ここは人手が不足しているし、少子化が進むことからさらに必要となる。
雇用の不足の心配よりも、労働生産性を上げるために細かい規制を外し、一方で労働者保護については規制を強化すべきという話。
少し前にGとLの大学の分け方について、色々と議論を巻き起こした冨山氏であるけれど、このあたりの話がわかると、企業が必要としている人材作りにフォーカスし、仕事に就くために大学に行くのであれば、そのように大学を変えるべきであるという話がなぜ起こるのかがわかる。
今は、どの大学も全てが就職先にGを選ぼうとしているが、Gは基本的に生産性がすでにかなり高いので、大量に人を雇用することは今後もない。
ましてや、日本人を優先して採用する理由もない。
であれば、Lを活性化させる人材を育て、そこから日本の経済を明るくさせていけば良い…ということだ。
このあたりの話がメインではあるが、折々に「経営者とはどうあるべきか?」や産業再生機構での経験談や、ちょうどタイムリーに出た東芝の粉飾決算の話など、あちこちに話が広がって充実した講演でした。
この人の本はこれから何冊か読んでみたいなぁ…と。
後期の講演会もいくつか申し込み済み。また随時感想アップします。
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