「いい本」というのは、読んだ後に自身の行動が変わったり、世の中の見方が変わったりする本のことではないだろうか?と思う。大げさに言えば、人生を変える本だ。
そんな「いい本」を私自身の例で挙げる。
「脳を鍛えるには運動しかない!最新科学でわかった脳細胞の増やし方」を読んだことで、それ以来運動習慣が定着した。
身体を丈夫にするためとか健康のために運動を奨める本はたくさんあるが、どうも読んでみてもピンとこなかった。
確かに健康は重要だけれど、運動習慣がなくしかも子供の頃から極端に運動音痴で苦手意識の強い私には、重要性はわかっても行動に移すところまではいくつもの壁があった。
しかし、この本を読んで、身体を動かすと自分の気分を安定させることができるということがよく理解できた。
自分の気分を安定させるにはどうすればいいか?というのは、私の長年の課題だ。
機嫌のいい自分は周囲にも迷惑をかけないし、何より毎日が楽しい。
この本にはその解がわかりやすく書いてあった。
「運動すればいい」
そんなわけで、私はこの本を読んでから、走ったりプールに行ったりという習慣がついたのだ。
そして、そのおかげで生活の質(Quality of life)は、びっくりするほど改善した。
もう一冊だけ例を挙げる。マインドフルネスブームが起きる何年も前に読んだ「タイムシフティング―無限の時間を創り出す」は、自分の価値観を見直す大きなきっかけになった。この本を読んでから、自分にとって、「ゆっくり過ごすこと」「静かに過ごすこと」というのが欠かせないものであることがよくわかり、仕事もプライベートも考えるときの軸足になった。
今回読んだ「NATURE FIX 自然が最高の脳をつくる」も同様の意味で「いい本」だった。
偶然、神保町の三省堂書店で見かけて、引き寄せられるように手に取った本。
その日は既に大量の本を購入していたため、その場では買わずにいたのだが、図書館で取り寄せて読み、家族にも薦めたいと思って、結局購入。
私たちの心身はこんなにも緑と水を欲しているというのがよくわかる本。
特に大きなトラブルやら、病気や怪我を抱えているわけでもないのだけれど、なんとなく憂鬱なんとなく疲れているという人にとても読んで欲しい本だ。
原題の”Why Nature meks us happier, healthier, and more creative”というのが本書の内容をよく表している。
著者自身も、自然の多い暮らしから、都心部への暮らしを余儀なくされ、心身ともに疲労を感じて、自分がに自然が足りないのでは?と考え、自然と脳、自然と健康について研究している人々を訪ねる。
訪ねて行ったのは、日本、韓国、フィンランド、スコットランド、シンガポールなど…。
この本を読むまで知らなかったが、よく聞く「森林浴」という言葉は、日本から生まれ、それを学ぶ形で韓国でも研究され、韓国は「山林浴」について様々な研究がなされているのだとか、
日本での研究の一例に以下のようなものがある。
この答えを求め、二〇〇八年、李は東京在住の中年のビジネスマンの一団を森に連れていき、三日間、二〜四時間ほど森のなかをハイキングしてもらった。三日後に血液検査を実施したところ、ビジネスマンたちのNK細胞が四〇%も増大していることがわかった。さらにその後も七日間、NK細胞が増えた状態は持続した。一か月が経過しても、NK細胞の数は森で過ごす前よりも一五%も多かった。いっぽう、同様に三日間、都会で散歩してもらったところ、NK細胞の数に変化は見られなかった。
ここに出てくる「NK細胞」というのは、「ナチュラルキラー細胞」のことで、病原菌から人体を守る免疫細胞のこと。
このような調査や研究の話が、あれこれ出てきて非常に興味深く、飽きることなく最後まで読むことができた。
健康な人から、ADHD、うつ病、トラウマを抱えた人まで、自然が及ぼす影響はとても大きいようだ。読んでいると、「健康格差」は単純な貧富の格差の問題だけでなく、周囲に自然があるかどうかという「自然格差」も影響があることがわかる(とはいえ、自然の多いところに住めるのはある程度裕福な人であることも多いのだが‥)
さて、この本を読んで、具体的に私の行動はどんな風に変わっただろうか?
これまでトレッキングやトレイルウォーキングなどは、花粉の時期をのぞくと、月に1回ぐらい行っていたが、その手のものは荷物も計画も必要でなかなか面倒でもある。
でも、この本を読んでからは、気分がすっきりしない時は、自宅前の公園(約145,000㎡あるらしい)にお茶を水筒に詰めて出かけたり、レジャーシートをもってランチに出かけたりするようになった。
この本によれば、芝生よりも「木」のほうが気分の回復に効果があるそうなので、なるべく木の多いところを選んでいる。
出先でも意識的に、自然のあるところに目を向ける(これだけでもある程度効果があるそうだ。この本の中には、VRを使って効果を検証する研究も出ている。)
この本を読んでいて、思わず笑ってしまったのは以下の箇所。
フィンランドの人たちは戸外で自然に触れてすごしはするが、自然をむやみに崇めて自己実現の道具にするような真似はしない。いっぽうアメリカ人は、ついそうしてしまう。人生でなしたいことのリストを後生大事にして、制覇した山々の記録をつけ、雄大な自然の絶景を写真におさめる。 (P182)
アメリカ人に限らず、忙しく暮らす私たちはついつい記録をつけたり、リストを作ったり、目標を立てたり、SNSに載せるために写真を撮ったりと何か目的を作ってしまって、どうにもマインドフルネスにそのことが楽しめない。
そう考えると近所の公園というのは、遠出ではないせいか、そもそも携帯電話も持っていかないし、迷うこともありえないのでキョロキョロする必要もない。
そういう意味ですごくリラックスできる場かもしれない(近所の人に偶然会ったりはしてしまうけどね)。
まずは近場にお気に入りの自然のある場所を探すといいかもしれない。
以前から私は、朝に15分の瞑想を続けている。
毎日はなかなかできないが、週に3回ぐらいのペースで続いている。
雑念だらけで、時には仕事のスケジューリングなどを考えていてどこが瞑想?という部分も多いが、それでも瞑想をした日としない日では、充実度にものすごく差があるものだ。
時に連続して1週間ぐらいできると、鳥の声がとてもよく聞こえてくる瞬間がある。色んな鳥の声が聞き分けられる。これが本当に気持ちが良いのだ。
こういった鳥の声や水の流れる音なども非常に心身に良いというのもこの本に出てくる。
一方で、不快な音を聴くと、人は形式も悪く見えるのだそうだ。まぁ、人の身体というのは本当に興味深くできているらしい。
「音の景観(サウンドスケープ)は薬だと考えるべきだ」と、スマイスは言う。「飲み薬のよなものだとね。健康にいいからとみずから運動を処方するように、公園のなかを散歩し、気持ちのいい音を聴く行為をみずからに処方するといい、毎日二〇分間の散歩を習慣にして、一生続けていく。ストレスにずかずかと侵入されたときに、対症療法として行なうのもいい。 (P135)
ニューマンとタフらのチームがもっとも注目しているのは、公園で聞こえる音に人為的な騒音が悪影響を及ぼしているだけではなく、景観も悪化させている点だ。乗り物の騒音を聞いた来園者は、そうした音を聞いていない来園者に比べて公園の景観を三八%も低く評価したのである(なかでももっとも悪影響を及ぼしたのはバイクの轟音で、その次がスノーモービルとプロペラ機の音だった)。にわかには信じられない話だが、音の景観(サウンドスケープ)は実際に目に見える景観にも影響を及ぼしていたのだ。想像してもらいたい。音のせいで、わたしたちがふだんどれほどの美を見逃しているかを(都会ではこれと正反対のことが起きる。鳥のさえずりが聞こえると、目の前の景色が魅力的に映る)。 (P131)
身体の調子が悪い。
心の調子が悪い。
そんな時にお医者様を頼るのも重要だけれど、できるだけ病院や薬に飛びつくのはやめたい…と思う人が多いだろう。
まずは、自分でできることはなんとかしたい‥と思う私のような人はきっとこの本が気に入ると思う。
新緑の美しい季節。この本を読むとあなたの行動や考え方も変わるかもしれない。
隣には、参加者のなかでは年配で、うつ病で入院経験のあるリンダ・ブラウンが座っていた。ライフジャケットの前で腕を組み、サンダルを履いた足をボートの船首のほうに投げ出している。「木は自分の命をコントロールできないものねぇ」と、彼女は聞き取れないほど低い声でつぶやくように言った。「人間だって自分の身に起こることをコントロールできるとはかぎらない。木を見ていると、受容することがいかに大切かわかる。変容していくことも」 (P294)
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