「若宮正子さん」というお名前を聞いて、ピンと来る人はそう多くないかもしれないけれど、AppleのWWDC2017のKeynoteで紹介された80代の日本人女性プログラマーと言えば、ニュースを思い出す人は多いかもしれない。
その若宮さんが、慶應丸の内シティキャンパスで講演をされるというので、聞きに行ってきた。
ステージに登場されたお姿は、リズミカルに歩かれ素敵なグレイヘアの小柄な女性だった。
お話を聞いてみると、ゴリゴリのプログラマーというわけではなくて、プログラムに関しては、老人の遊びたくなるゲームがなくて、作って欲しい…と、プログラムに詳しい人に頼んでみたら、教えるので自分で作ってみたらと言われて教わりながら作ってみた‥ということだ。このあたりの話は、「82歳のiPhoneアプリ開発者 若宮正子さんの横顔」に詳しい。
ご自身の社会人経験では、インターネットはもちろん、コンピュータともほとんど縁のない生活だったとのこと。高校卒業後、当時の三菱銀行に入り、定年まで勤め上げ、定年間近に個人でパソコンを購入。
(そもそもこの世代の女性で定年まで勤め上げるケースというのもかなりレアなのではないだろうか?)
パソコン通信からスタートし、そこで「メロウ倶楽部」との出会いがあり、そこから年配者にパソコンを自宅で教えたりということをされていたようだ。
10年に及ぶお母様の介護があっても、インターネットがあれば外とつながることができて、まるで翼を手に入れたように感じたというのは、生まれたときからインターネットがあって当然の世代にはわからないかも。
私もパソコン通信を始めたときは、知らない人と突然つながる感覚に同じようなことを感じたなぁ‥とちょっと懐かしかった。
お話を聞いていると、まず「好奇心」がすごい。
これが「知る」だけの知的好奇心だけではなく、知ったことを実際にあれこれ試したり、もっと何か工夫できないか?という点にびっくりさせられる。
一つの例としては、ExcelArt。
彼女のExcel Artの作品は、こちらに掲載されている。
この日の講演資料のスライドの枠に使われている柄がずいぶんと渋いな‥と思っていたら、このExcel Artのものだったと後で気がついた。
自宅でパソコンを教えるときに、Excelを学ぶとアプリの基本的な使い方が学べていいだろう‥と思ったそうだ。
しかし、市販の老人向けのテキストは、血圧のグラフを作ろうとか気が滅入るようなものとか、たいしてお小遣いもない老人にお小遣い帳をつけさせても‥と感じ、まずはパソコンを楽しんでもらいたいとExcelArtを初めて教えられたそうだ。
なかなかこういう発想は出てこない。
ニコニコしながら、「パソコンだといくらでも画面が拡大できますから、老人にも向いているんですよ」とのこと。
「老人とパソコン」というと、目が疲れて不向きでは?という発想になりそうだが、確かにいくらでも文字が大きくできるというのは、PCならでは。
この日はこういった自己紹介の他に「人生100年時代をどう生き抜くか」というテーマがあり、これは講演依頼の中にあったようで、「私自身100年も生きていないのですが‥」と笑いつつ、ジジババファンドを作って年寄りから金を集めて若い人に投資してはどうか?多少、損をしてもオレオレ詐欺に持っていかれるよりいいし、日本の問題は年齢別の輪切り社会であること、また、今の日本は昭和を引きずりすぎているということから、町内会など昭和の風習を見直す時期では?少子高齢化は本当に悪いのか?などかなり鋭く、そしてそのご年齢とは思えない革新的な意見が多い。
また、やはりITへの感心が高いのだろう、随所にAIやセンサーとデータの話、仮想通貨、果ては量子コンピューターの話まで飛び出したのはびっくりした。
世界のあちこちのイベントに呼ばれることも多く、こんなにあちこちに移動したりするのは、人生で始めてでこんなに自分が丈夫だったのか?と自分で驚いたとのこと。
質疑応答の時間に、何かをするのに遅すぎるということはない、やれば必ず何かしら上達する。
自分も最近ピアノを習い始めたが、少しずつでもやはり上達はしている‥という言葉に、会場内の温度が少し上がった気がしたのは気のせいではないだろう。
南米で行われたMaster Cardのイベントでは、電子政府を実現したエストニアの前大統領やリチャード・ブランソンともにゲストとして参加され、 ITリテラシーで、性別・年齢などの殻を破ることをテーマにお話をされたそうだ。
そのイベントの大きなメッセージは「limitless」まさにこの方にピッタリの言葉だった。
感受性豊かで、心が柔らかい。
内面がまったく年を取らない人なのだろう。
聞いていて本当に元気になる講演会だった。
この日の講演会の聴衆はいつもにも増して年配の男性が多かった。
女性よりも男性の方が年の取り方って難しいのかもなぁ‥と、ふとそんなことを感じた講演終了後の眺めだった。
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