2009年6月にオフィスを小川町に移転した。
本の街神保町に近くなって、久しぶりにあちこちの本屋さんをのぞいているうちに、ビジネス書以外の本が読みたーい・・・・という気持ちがむくむくとわいてきた。
しかし、新しいオフィスは以前のオフィスに比較して、非常に居心地がよくなったため、好きな小説や文学を読み始めたら、仕事やコーチングといった本来の利用目的の部分が何もできなくなってしまう・・・と贅沢な悩みを持つことになってしまった。
そこで、小説や文学については、一日一章単位で読む。もしくは短編を一つ読む・・・という自分なりのルールを設定した。
この夏はそんな風に村上春樹の「1Q84」を丁寧に読んだ。
窓を開け放すと表の靖国通りから車の音が聞こえてくるが、風が抜けるのが気持ちよくてそうせずにはいられなかった。
いい夏だった。
一日一つだけ読む・・・と思うと、勢い本を選ぶ目も厳しくなる。
絶対外さないものを読みたい・・・・という気迫のこもった目で、主に東京堂書店と三省堂書店のそれぞれ1階のコーナーをうろうろ歩き回る。
絶対に外さないものを、見つけた!
カズオ・イシグロの短編集だった。「夜想曲集 音楽と夕暮れをめぐる五つの物語」
涼しい風が吹き始めた頃から読み始めた。読み終えたときにはもう秋になっていた。
どの物語も音楽に男女の想いがからまり、五編それぞれが違う音色を奏でる。それはどこかゆっくりとしていて味わい深い。
なかでも私が心を捉えたは、「老歌手」という短編。
往年の大歌手は長年連れ添った妻に、ゴンドラからセレナーデを歌う。
情熱的でありながら静かで哀しい、でも、何か清々しいものを一握り残してくれる物語だ。
最後の短編「チェリスト」を読み終えたときには、ほーっと深くため息をついた。
この繊細な物語を無事読み終えたことに、ほっとしたため息だったのかもしれないし、この著者の世界が終わってしまったことに対する残念だという思いのため息だったのか、どちらなのかわからない。
晴れた秋の日にこの本を読み終えることができて、幸せだな・・・・としみじみ思う。
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