「それってどうなの主義」斎藤美奈子著

めっぽう辛口で、切れ味鋭い斎藤美奈子が今回は社会、報道、文化、教育などに切り込んだ。
いやはやどれもれこれも痛快。
それはちょっとうがった見方過ぎるのでは?と思う箇所もあるのだけれど、それすら気持ちよく読めてしまうのがこの人のすごいところだと思う。
このうだるような暑さの中でもすーっとする、もしくは背筋がヒヤーっとする切れ味である。

確かに私たちは、毎日のニュースや社会問題について、「それってどうなの?」と思うことがしばしばある。
そんな風につぶやいても事態は何も変わらないが、それでもこの「つぶやき」には、以下のような効果があると著者はいう。

・違和感の表明
・頭を冷やす氷嚢
・暴走を止めるブレーキ
・引き返す勇気

「それってどうなの主義」とはすなわち、違和感のまま呑み込まず、外に向かって内に向かって表明する主義。言い出しにくい雰囲気に風穴を開け、小さな変革を期待する主義のことなのです。

一例をあげてみる。
「空爆」と「空襲」という言葉をメディアはイラク、アフガンの戦争で使い分けた。
では、この言葉はどう違うのだろう?

それは攻撃する側の言葉が「空爆」、攻撃される側からの図が「空襲」だ。

空爆だと、「米軍がイラクへの空爆を開始しました」
空襲だと、「バグダッドが米軍の空襲を受けました」

色々と元になる英語を辞書で調べてみると、空爆でも空襲でも訳語としては間違いではないそうだ。でもそれなら、やっぱり空襲を使うべきではないか?と著者はつぶやく。

こんな風に小さなことでも違和感を感じることが次から次へとつぶやかれるのを、ぐいぐいと引っ張られて、あっという間に最後まで読まされてしまった。

一つ一つのエッセイはごくごく短い文庫で4ページ前後のものが多い。
2003年から2004年に書かれたもののため、若干時間が経っているので、その後2007年にそれぞれにその後の経過を追記しているが、この追記がまたニヤリとさせる。

この本の解説は今をときめく池上彰。なぜ彼がこの本の解説を引き受けたのかが、笑えるので最後にその文章を引用しておく。

 本を書く者にとって、斎藤さんは怖い存在。著者本人でら気づいていないような本質に迫り、著者の偽善を暴き立てる筆致に、二度と立ち上がれない思いをした人は数知れず、そんな悲惨な現場を見て、「どうか斎藤さんの目に留まりませんように」と、びくびくしながら本を書いている人は多いはずです。それは私も同じです。

 斎藤さんが文芸芸作品の書評を書いている間は、文芸と縁のない私のような者にとって、気が休まるのですが、いつ何どき、余計な気を起こされるか、わかったものではありません。

 それならいっそのこと、斎藤さんの文庫解説を引き受けてしまえば、以後、さすがの斎藤さんでも、私の本に関しては目こぼしをしてくれるのではないか・・・・。

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