スタンフォードが教える本当の「働き方改革」

2020年は、新型コロナウイルス感染症に振り回された1年だったと記憶される年になりそうです。
不要不急の外出を控え、人との対面でのコミュニケーションが減り、離れて暮らす家族とは会うことも難しくなり、そして日本の企業ではこれまではノロノロとしていた働き方改革が急速に進んだところも多いでしょう。

このような生活や働き方が大きく変わらざる得ない環境下では、改めて自分にとっての働き方や仕事の取り組み方を見直す人が多く、コーチングでもそういったトピックがとても増えました。

ひょっとしてこんな状況が起きるのを見越していた?と思ったのが、少し前である2019年5月に出版された「スタンフォードが教える本当の働き方改革 」という本です。

装丁とタイトルが個人的にはちょっと残念な印象なのですが、「HOW WE WORK - Live Your Purpose, Reclaim Your Sanity, and Embrace the Daily Grind」がの原題が表すように、働く上で自分の内面をじっくり見つめるヒントが詰まっている本です。

全体的には「マインドフルネス」の考え方をベースに、「生活のための仕事」か「やりがいのための仕事」か?という二者択一ではなく、心身ともに満足する働き方というものを探る本です。

全体は3部構成に分かれています。この記事では、その構成に沿いつつ、私が面白かったり興味深かったりした点を書いていきます。

尚、マインドフルネスに関しては、かなりたくさんの良書が出ていますので、この記事では控えめにしています。

個人的には、マインドフルネス関連で一番好きな本は「タイムシフティング」という本で、20代にこの本に出会ってから、繰り返し読んでいる本です。

第1部:目的のある働き方

さて、「マインドフルネス」という言葉から、いわゆる座って行う「瞑想」を思い浮かべる方も多いと思いますが、本来は、今現在において起こっていることや自分が体験していることに注意を向けることであり、ようは「今にいること・今を味わうこと」です。

マインドフルネスを養うために一つの代表的な訓練が「瞑想」ですが、座禅ポーズにとらわれなければ、瞑想は生活のあらゆる場面で可能です。
例えば、食器を洗うときに「面倒だなぁ、なんでいつも私がやらなきゃいけないんだろう‥」などと考えながらやるのではなく、洗っているお皿に集中してキレイに洗おうと思って洗う。
後者がマインドフルネスです。

1つ1つに集中するというのは、「なるほど、それなら生産性も集中力も上がるな‥」と思うものの実際にやってみると、なかなか気持ちの切り替えが難しいものです。
意味のない会議への出席などを思い浮かべるとよくわかると思いますが、大体は会議に出席しながら、別のタスクのことを考えていたり、ひどいときはこっそりと持ち込んだPCで別の作業をしている‥なんていうのは、皆さんもよくあることだと思います。

<タンパ・スム>

気持ちの切替の方法として本の中で紹介されているのが、こちら。

これが、私にはとても良かったです。
特に、今はリモートワークが中心なので誰も見張る人がいなく、ダラダラしがちなのですが、この3つを意識すると、周囲に人がいなくても仕事の密度が上がる気がします。

先程の会議の例でいうと、

1. 顧問としてオンライン会議に参加するのだから、建設的で生産的な会議の場になるように促す行動を取る。

2. 1を実行する

3. 終わった後に自分は1で意図したような行動が取れたか振り返る

‥というような感じです。
問題は、タンパ・スムそのものを忘れてしまうことですが、これは上記を印刷したのもを壁に貼って、都度眺めるというアナログな方法で忘れないようにしています。

<仕事の目的>

自分の仕事をどう捉えるか?というのも、働く上でとても重要です。
以下は、「Learning Better」というまた別の本で取り上げられていた調査を図にしたものですが、仕事を単なる「生活手段」として捉えるのではなく、自分の「使命」や大きな意味での貢献を目的にすることで、自分もやりがいを持って働くことができるということです。

こういった目的意識を持って働くことは、仕事への満足度が上がるだけでなく、ストレスが減少したり、他者との感情的なつながりの強化により、人生への満足度が上がるというような様々なメリットがあります。

とはいえ、目的をどう見い出せば良いのかわからない‥という方も多いと思います。実際コーチングでもそういった悩みはよく聞きます。
この本では、「トップダウン式」と「ボトムアップ式」のアセスメントのやりかたが具体的に説明されているので、興味ある方はぜひ、そちらを読んで試してみることをお勧めします。

一人ではどうも向き合えないという方には、お試し無料セッションもありますよ(宣伝?)

お試し無料セッションについて

職場で過ごす時間、仕事に取られる時間は、起きている時間の半分以上という方は決して少なくないと思います。
起きている時間のかなりの部分を占めるのが「仕事」。
それだけ長い時間を使うものに目的意識がなく、生活手段のためだけというのは、ストレスフルです。目的意識は組織のためだけでなく、自分のためにもあったほうが、毎日はずっと楽しいと私は思うのです。

第2部:職場でも「自分自身」であるために

この第2部は「思いやり」についての話が中心です。

2019年だっと思いますが、「Think CIVILITY 「礼儀正しさ」こそ最強の生存戦略である」という本が話題になりました。

この本で紹介されている調査から、職場で誰かから無礼な態度を取られているという人に対して、次のようなことが言えることがわかりました。

  • 80%の人が、無礼な態度を気に病んでしまい、そのせいで仕事に使うべき時間を奪われている。
  • 78%の人が、組織への忠誠心が低下したと答えている。
  • 66%の人が、自分の業績は低下していると答えている。
  • 63%の人が、無礼な態度を取る人を避けるために仕事に使うべき時間を奪われている。

「Think CIVILITY 「礼儀正しさ」こそ最強の生存戦略である」より

無礼な態度を取る人物が、たとえトッププレイヤーだとしても、その成果以上に職場に大きな悪影響をもたらしてしまうというのは、組織に属していた人間なら感じたことがあるという方も多いのではないでしょうか?

そもそもこういった人物から直接無礼な態度を取られることがなくても、それを見ていただけの周囲の人間も間接的に悪影響を受け仕事や組織へのモチベーションが低下していきます。

職場での人間関係の悩みという話題になると、私たちはなんとなく被害者側に自分を位置づけてしまいがちですが、気がつけば加害する側になっていること、不機嫌を振りまく側になっていることも往々にしてあることです。

上記は少し前にバズったTweetです。
私も同じようなことを思っています。
子どもの頃からあまり丈夫でない私は、体調の悪いときに、人に優しくできる人ってなんてスゴイのだろうといつも思っていましたし、そういう人を見るたびに自分もそうなりたいと思っていました。

大人になって、自分には大人になっても、残念ながらとてもそんな人にはなれそうにない‥と気づき、発想を変えて人に八つ当たりをしないように身体の調子を整えようという風に方向転換しました。
この方向転換は良い判断だったのではないかと自分では思っています。
自分を良い状態にしておけると他人に思いやりを持つのは、そう困難なことではなくなってくるのです。

ハーバード・ビジネス・レビューでもセルフ・コンパッション(自分への思いやり)が特集されました。職場での人間関係の良さが生産に繋がるということが経営論の中やマネジメント層に、非常に意識されてきているということでしょう。

上述したように自分の状態が悪いときに、他人に親切心を持ったり共感したりというのは非常に難しいことです。
よく本当の友人関係というのは、友人の幸せを心から喜べる関係だと聞きますが、これなども自分の状態が悪いときにはなかなか難しいこと。
ましてや、職場の関係者というのは、自分が選んだ人間関係ではなく偶然の産物です。

職場では人間関係以外にも多種多様な「うまくいかないこと」が発生しますし、感情的に悲しく感じること、恥ずかしく感じること、怒りを感じることといったものが発生します。
そんなとき、私たちは「ここは職場だから…」と感情を抑え込んだり、「自分が我慢すれば‥」と自分の感情に目をそむけ、組織や仕事を円滑に回すことを優先しがちです。

これは一見「大人の態度」に見えますが、スタンフォード大学の感情心理学者のジェームズ・グロス氏の研究では、感情を回避しようとすればするほど悪い結果を招くことがはっきり示されてるとのことです。

回避や反芻、抑制といった行動はすべて、不安や落ち込みといったネガティブな感情を増大させるだけでなく、作業記憶(理解や学習など作業に必要な情報を一時的に記憶し、作業に活用する能力)の機能低下やストレスの増加、自分らしさの感じる気持ちの減退、困難に立ち向かおうとする能力の低下にもつながる。そのうえ、自分の感情に対処する際に抑制戦略を採用しがちな人は他人に好感を持たれにくくなる

うーん、これを読むと感情を抑えるというのは、仕事だけでなく人生全般に対して良いことはなさそうです。
では、どうやって自分の感情に向き合うのか、そして自分への思いやりというのは、具体的にどんなことをすればいいのか?というのは、ぜひ本書をお読みください。

また、こういったネガティブな感情というのは、外部からのものと自身の内部から発生するものがあります。内部からのものには、自己肯定感が深く関わっているケースも多いです。
自己肯定感や自分への思いやりについては、以下の漫画もオススメです。

こちらは育った環境の影響から大人になっても自己肯定感が持てなかった著者が、自分の中の満たされなかった子どもに思いやりを持ち、思いやる態度で接していくうちに、現在の自分が楽になっていく‥という著者の実体験が漫画でわかりやすく描かれている漫画です。

第3部 失敗と振り返り−成功する人と組織の習慣

「失敗を恐れるな!」「失敗が成功に繋がる」みたいな話は、よく有名起業家や経営者の本に出てきますが、自分が職場でするとなるとやっぱりね‥できれば失敗したくないよね‥ということになりますね。

私は以前、米国の外資系企業に勤めていたときに思ったのですが、新卒採用を基本的に行わず、経験者と即戦力採用で成り立っている組織に、失敗していい仕事というのが転がっておらず、若手の育成って言われてもなぁ‥とだいぶ頭を悩ませたものです。
では、日本企業なら‥と考えると、私が若い頃よりも随分と失敗に寛容じゃない職場が増えたな‥という気がします。これは、社内が部門の生産性に厳しくなってきたことや、客先が失敗するようなやつを出すな‥という空気になってきたことなど色々とある気がしますが、とにかくいろんな面で日本の社会は他人に厳しくなってきているような気がします。

で、ますます失敗しにくい職場環境に‥。

とは言え、失敗するということは、少なくとも何かしらに挑戦したり、行動したり、努力している証拠でもありますし、誰がやっても失敗するということは必ず起こりえます。
失敗するかもしれないからやらない‥という選択肢はない以上、失敗したときはその失敗をどう活かすか‥ということを考えよう、それには「振り返り」だ‥となるわけです。

振り返りを効果的に行うことで、次の失敗を防ぐことができたい、そこから学習することが可能です。
本書では振り返りを行ったチームと行わなかったチームの比較調査などもあり、その差は決して僅かなものではありませんでした。

組織の振り返りが難しいところの一つの理由に、犯人探しのような流れになってしまうことがあります。振り返りは決して悪かった点だけを出すものではありません。
振り返りの際のフィードバックについても参考になる話が出ていますので、ご興味ある方はぜひこちらも。

組織やチームだけでなく、個人の振り返りも非常に重要です。
コーチングを通じてクライアントさんのお話を聞いていると、振り返りの習慣がある人は一つ一つの目標に対して、ゴールするスピードが高く、また公私ともに後悔するような失敗をすることが少なく、精神面も安定している方が多いように思います。
個人の振り返りについても日記を始めとしたいくつかのアイデアが紹介されています。

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