「思考の整理学」

先月に亡くなられた外山滋比古氏の「思考の整理学」を読了。

30年以上前の本で、祖父の書棚にあったので、私も若い頃に読んだことがあった。
今も増刷が続く恐るべしベストセラーで、書店で「東大・京大」という大きな文字を見かけたことがある人も多いだろう、東大・京大で最も読まれた本らしい。

若い頃、読んだときにもそれなりに感じるものはあった記憶があるのだが、改めてじっくり読んでみると、当時の自分には、この本の根幹の部分は理解できていなかったのではないかと思う。

おそらく、スクラップの仕方とかノートやカードの効果的な使い方などのHow to部分には興味を持ったと思うのだが、この本の肝になるどう自分の思考を深めていくかの概念的な話は、スルスルと流してしまっただろう。
若い頃の私は、今よりもさらに「どううまくやるか」に主眼をおいていたので、「何のためにやるか」とか「そのアイデアをどう深めるか」などということを考えるには至らなかった。

この本自体、研究者であるこの著者の研究の進め方をベースに書かれているので、ビジネスマンの人が読んでも、回りくどいし、これを読んで明日から自分が何をすべきか?ということあパッとわかるタイプの本ではない。

本当の整理はそういうものではない。第一次的思考をより高い抽象性へ高める質的変化である。いくらたくさん知識や思考、着想をもっていても、それだけでは、第二次的思考へ昇華するということはない。量は質の肩代わりをすることは困難である。
一次から二次、二次から三次へと思考を整理して行くには、時間がかかる。寝かせて、化学的変化のおこるのを待つ。そして、化合したものが、それ以前の思考に対して、メタ思考となる。

上記は、思考や知識の整理ということついて書かれた文章であるが、仕事においてこういったことを行っているのは、それこそ一部の研究的な職の職に就いている人ぐらいではないだろうか?

通常は、厳しい(ある意味現実的ではないとすら思われる)締切があり、それに合わせて、ネットを中心とした集めやすい情報を集め、それをもっともらしくスライドに加工して出す‥、そしてまた次の仕事に同じように取り組む、というような人が多いのではないかと思う。

こういった仕事についている人たちは、一般にホワイトカラー、知的労働者と呼ばれるけれど、実態はどうもベルトコンベアで同じようなものを量産しているに過ぎないのかもしれない。
(あれ?これひょっとして今読んでいるブルシットジョブ?)

私も正直なところ、仕事の中でここまで思考を深めることが必要と思うことはほとんどない。
情報収集をしたものをマインドマップを元にあれこれ考えるぐらいで終わっていることがほとんどだ。

先程の話でいうと、「情報収集→マインドマップ→スライド」というぐらいだが、組織に勤める人たちはもっと忙しいので、ここに「マインドマップ」が入るだけでも、それなりのアウトプットのように思われるので、こうして途切れず仕事ができているのだと思う。

(そもそも日本企業の混雑した狭いオフィス環境で思考を深めることができる人というのは、かなり少ないだろうし、電話は個人直通ではないし、とにかく中断が入ることが多いので、ある意味従業員にそういった考え抜いた成果をそもそも企業が求めていないのではないかとすら時に思う)

私の中で、この本のようなやり方が必要なのは、むしろ通信教育で学ぶ大学のほうだ。法学部でもデザインでもおそらくこのやり方はとても重要で参考になる。
そういう意味では、社会人が大学で学ぶというのは思考を深める訓練でもあり、脳みその使い方日々と異なることがとても気持ちの良いものなのだ。
実感としてそう思う。

話を本の話に戻すと、こういった思考の整理以外に、様々な考えさせられるトピックが述べられている。
例えば、教育についての考え方などもというのは、今のAIで仕事が奪われる‥という話とかなり共通している。
仕事が奪われる機器というのはコンピュータの登場からずっと同じ話なのだ。

著者自身の仕事のにまつわる思考の深め方だけでなく、その柔らかいお人柄が出ている文章も読んでいて気持ちが良いし、人生の先達としての知恵もたくさん含まれている本。
折に触れて読み返したい本となった。

若い頃はわからなかった本が、歳を重ねて興味深く読めるようになるというのは読書の持つ愉しみの1つだと思う。

 俗世を離れた知的会話とは、まず、身近な人の名、固有名刺を引っぱり出さないことである。共通の知人の名前がでると、どうしても、会話はゴシップに終わる、ゴシップからはネズミ一ぴき出ない。害あって益なしである。
つぎに、過去形の同士でものを言わないことである。「…‥であった」「…‥した」という語り口もとかくゴシップがかる。「…‥ではなかろうか」「…‥と考えられる」といった表現を用いていれば、創造的なことが生れやすい。

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