2020年7月18日(土)に第7回のサードプレイス読書会を開催しました。この回で取り上げたのは、「遅いインターネット」宇野常寛氏の本です。
想定はしておりましたが、やはり思想に関する本というのは、参加率が悪く、この日は主催者2名を含め、全体で5名の集まりとなりました。
読み始めても途中で挫折してしまう箇所も多いだろうなと考え、今回は特別に募集の段階で以下のような記事もアップしました。
読書会は、いつもの通り参加者の方の自己紹介からスタートでした。今回は初参加の方が1名で、残りの2名の方が何度目かの参加でした。
出席者の人数が少ないのは、募集時期は主催者としてちょっと寂しいようにも感じるのですが、実際に少人数で開催されると、一人一人のご意見がじっくり聞けることができるというメリットは大きいです。
特にオンライン上だと活発に双方向に話すのはなかな難しいのですが、このぐらいだと進行役を介さなくてもドンドン話せるのが良いですね。
話が深いのはやはり人数の少ない時なのです。
自己紹介の際に今回の本を読めましたか?と伺うと、読みきれませんでした、通読したけれど、理解できていない部分多い、といったこの本のハードルの高さが伺えました。
さて、ここからいよいよ本の内容に入っていきます。
Contents
遅いインターネット
序章: オリンピック破壊計画
オリンピックの開催国というのは、どうやっても赤字になるもののようです。そこを敢えて長引く不況の続く日本が開催国に立候補するには、なんらかの将来への青写真が必要だったと思われるのですが、それもなく決まってしまった東京オリンピックについて、著者が色々と考察していくのが序章です。
読書会では、オリンピックそのものに対して、興味をそれほど惹かれていない‥というのが今回の出席者の全体のムードでした。
この本が執筆された時点では、コロナの話もなかったので、2020年にオリンピックが行われることとなっていましたが、読書会の開催時には既に延期決定となっていました。
そういった中で、そもそもTVの放映時間の関連で夏に開催しなくてはならないことや、今の形態で続けることがそろそろ制度疲労ではないだろうか?という話や、でも新たに制度を作ってまで開催続ける意味はそもそもあるのか?
大体エンブレム問題とか競技場建築費用とか考えても、そこまで大掛かりにやる意義はどこだろう?集団を束ねるという考えたか自体が古いかも?とか、来年開催じゃなくて、東京オリンピックはもう飛ばして、次は2024年でいいのでは?とか、色々と出ました。
この本のオープニングの問題提起としては、オリンピックは読者の興味を惹くのにもちょうどいいかも・・というご意見に一同納得。
1章:民主主義を諦めることで、守る
世界は今、分断されているという話が、この章の起点です。
上の画像では、「Somewhere」と「Anywhere」というグループに分かれていますが、これ以外にも同じような意味でグローバルな人vsローカルな人、世界を素手でつかめる人vsつかめない人などが同じような意味で出てきます。
こういった分断がトランプ大統領を生み出した‥ということが主張されています。
読書会の中で出た、グローバルとそうじゃない人は、コロナでリモートワークのできる人とそうじゃない人につながるかも、という意見は例としてとてもわかりやすいものだと思いました。
この章ではその他に、 「世界を素手で触れる」の説明が一切なくてピンとこないという話も出て、確かにこの本はどうも前提や定義やらがよくわからない点がいくつかあるね‥という話になりました。たとえば「多文化主義」という言葉も、もう少しこの本の中では、こういったことを「多文化主義」という言葉で表てしているという話があってもいいような気が。
わりとここは辛口のコメントが続きました。そのまま羅列します。
- 世界を変えている感覚というはなしだった気がするが、4章はまた違うような‥
- 各章は納得するが、トータルするとよくわからない。世界に素手で触れていない人はどうなるのか?という話がないのでは?
- この本自体が、Anywhereの人にしか届かないのでは?風呂敷が大きすぎる
- 民主主義自体が提示されていない、吉本隆明に乗っていくから、よけいわからない。一口に民主主義といっても、実際かなり範囲が広くないか?
- Somewhereにどうアプローチるのかがよくわからない。
2章:拡張現実の時代 エンドゲームと歌舞伎町のピカチュウ
この章についても、色々とご意見が出ました。面白かったのは、ここの章は上記のような図がないのが読みにくくてしょうがない‥という話。
ちなみに上記の図は、本書の内容をもとに事務局で作成したものを参加者にお配りしたものです。
この章にIngressというオンラインゲームの話が出てくるのですが、このゲームはまだ存在する?あるならやってみたい‥という話も盛り上がり、参加者のお一人が、漫画「聖☆おにいさん」にこのゲームが出てきた…という情報も提供もあり、読書範囲の広さを物語る一コマも…。
その他ご意見は、以下のとおりです。
- 著者はSNSに関してかなり否定的なのに、遅いインターネットの活動は全てFacebook 。Webサイトも文字が多すぎておそらくアクセスが伸びないので、SNSで拡散してね‥というのは、なんだか矛盾しているような‥。
- 結論はないが、世の中の流れをよく整理してくれている。コンサルのフレームワーク(考える枠)を提示している、あとは自分で考えてね‥ということでは。
- Googleに対して、ものすごく好意的。環境整備だけで、あとは自分が考えて使うものだから?でも、これって本来SNSも同じでは?
- ポケモンというフィルターでものを見るから、別にフィルターか出ていない結局同じ。
- 問題意識の提示→遅いインターネットにたどり着くまでの整理。
- この枠にはめる、お茶の見立てみたいに使うと、よいのでは?ネットとメディアだけなので、もったいなかったかも。
3章 21世紀の共同幻想論
ここは、この本の中で一番とっつきにくい章だったかもしれません。というのも前半に吉本隆明の共同幻想論の話が延々と続くからです。
この部分については、Tomokoさん(サードプレイス協同運営者)が頑張って資料を作ってくださり、さらにそこについての説明からスタートしました。
後半は「ほぼ日刊イトイ新聞」の話となりましたので、こちらはまた活発なご意見が、あれこれ出ました。
ほぼ日に対するイメージというのは、なんとなくですが年代によって結構違うのかもしれないな‥と思いました。
ということで、以下、皆様からのご意見です。
- テキスト主体の頃は読んでいた、’ECサイト化してからはあまり、面白くなくなった、ご機嫌を想像する、中位のメディアのころは楽しかった。物語を買うには高いし、ほぼ日ではなくてもよい。
- ほぼ日は、見にくい。どこ見ていいのかよくわからない。ファンじゃないととっつきにくい。フォーカスわからない。コトからものへというのもわからなかった。(若いのでそもそも存在が違う)
- 手帖と糸井重里のイメージが強すぎる。バブルのイメージが強い。
- オピニオンリーダー、説教臭い。対談とか面白いけれど、意識高い系?
- 政治を語らない政治スタンス、それが透けて見えるところがある。
- 無印良品化している‥ ものの世界のほぼ日。
- 無印良品はSomewhere Anywhereの間では、前章の第三象限の拡大?家具高いし‥
- 消費って格好良くない・格好いい(バブル経験者)
- ほぼ日上場 イメージ壊れた。そもそも何で稼いでいるんだろう?
4章 遅いインターネット
最終章の結論は上記のスライドとなります。
この本の結論は、この部分で非常にシンプルなものです。実は。
ただ、どうしてこういうことを結論においたのか‥、ここまでたどり着くまでの著者の思考過程を丁寧に表してきたのが、これまでの各章です。
以下、読書会での皆さんからのご意見です。
- 思想家としての危機感 つまみ食いの意見が嫌なのはわかる。Anywhereに対抗策がよリすぎでは?
- インターネットによって、読むことだけでなく書くことも日常になった。世界に触れているわけではないが、トランプを選んでいるわけではないという曖昧な人たちをAnywhereの低いそうに良いメッセージかも。もっと政治参加を意識する
- SomewhereとAnywhereの間にいる人が結構いる。そこへのアプローチにいい。
- SNS似感想を投稿してほしいのはこれかも。そのままの人たちは本を読まない。
- 現在のインターネットって考えないためのもの。自分の好きなものを探せる、話題の切り替えが早く考えることを放棄してしまう。スロージャーナリズムの大切さ
- 感想をSNSにってまた、考えない人がふえるのでは、噛み合わない気がする。
- スタルジックな印象をやや受ける。ブログ、黎明期のTwitterに戻したいという感じ?技術が普及すれば変質する。そこへの手当の解答は出されていない。結局、SNSで拡散というのは矛盾?3つの提案のそれ以外の2つがどうなるか?これも出てこないと民主主義は暴走してしまうだろう。3つ全部に強度が必要。パラメータが多すぎる
- 第三の提案は、自己幻想から自立へ変わっている。承認欲求と同じツールを使うことを言っているから、矛盾して感じるのかも。
- Twitterとかがもっとおかしくなれば、中間の人はいなくなる。そもそもそんなにTwitterに影響されている人がいるのか?※ただ、メディア→SNSが、SNS→メディアになると文化作りになるとかなり恐ろしい。
- ツールの話がずっと続く、何を題材にするかは出てこなかった・じゃぁ、著者は何を発信するんだろうか?良質な読み物とは?コミュニティにいけ?黎明期はよい読み物があった‥
読書会全体の感想
- 読めたような読めないような、資料作成で全体像が見えた感じ。 吉本隆明の深堀りをしてみたいと思った。コンサル的な枠組みもよかった。
- 資料がとっても助かった。 自分で読むときは、メモを取らないので、書き込みができて、深く読むことができた。 自分が思っていたことが皆さんの話を聞いてさらに引き出された感があって、行動したくなった。 自由主義とか資本主義とか再開して読んでいきたい。
- 久しぶりに自分で選んでいない本を読んだ。 好きな本以外を読むという機会。久しぶりにメモをとって、面白かった。 トランプのところでうんざりしたけれど、最後まで読んで色々と面白かった。 自立ってなんだろう‥というテーマの本を読みたい。距離感と進入角度がみんなが違くて、面白かった。 読みにくい本だからと、読書会に出ないのは、むしろもったいない。これまで読めなかったものも、読めるようになるチャンスだし、ノーリスクなんだから積極的に出たほうがお得では?
- 資料がすごい、資料を作ると自分の理解も深まるんだろうなぁと思っています。 タイトルと中身にギャップがあった。 インターネットの話じゃなかった。 多読かそうじゃないかは問題ない、その本を読んでどんな行動をとるかや影響を受けたかが成果だと聞いた。 この本の次の行動について考えていきたい。 ネットの情報に動かされないことについては自覚をもって、深く踏み込む。
かなりの長文の記事にになってしまいましたが、これだけ様々な意見が飛び交った会が開催できて、主催者としては改めてこういうことがしたかったのだな‥と実感した会でもありました。
資料に関しては、以前から参加者の方に褒めてもらえることが多く、なんだか最近えらく気合が入っている主催者2人です。
第8回読書会について
さて、次回の第8回は10月8日(土)開催で、課題図書は「「心を病んだらいけないの?―うつ病社会の処方箋―」 となります。
こちらはとっつきやすい本ですが、実はとても奥が深く、興味あるところだけあっさり読むこともできれば、じっくりたどってみるという深い読みもできるというすごい本です。
残席が少なくってきましたので、ご興味ある方は早めのお申込みがオススメです。
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