2020年最後の読書会では、2019年にベストセラーとなった「AI vs 教科書が読めない子どもたち」を取り上げました。
この本を書かれた新井紀子先生のTEDでのプレゼンテーションはこちらです。
この本の要点のみが短い時間にまとまっています。本はまだ読んでいないけれど、興味があるなぁ‥という方にオススメです。
Contents
【自己紹介と今年の漢字】
まずは恒例の自己紹介からスタート。
いつもだと最近読んだ本についてもお話してもらうのですが、今回は年末ということで、皆さんの「2020年:今年の漢字」を紹介してもらうことにしました。
ちなみに毎年恒例の日本漢字能力検定協会の発表する2020年の漢字は「密」で、2位は「禍」3位は「病」というコロナ一色だったようです。
サードプレイスのメンバーの皆さんから出てきた漢字は以下の通り。
「青」「覚」「禍」「「変」「霧」「省」「移」
いずれも、なぜその漢字?というご紹介では、こちらでもコロナの話が多かれ少なかれ含まれていました。
ただ、全部が暗い話ではなくて、どちらかというとコロナをきっかけに、自身の暮らしや将来、あり方など色々なことを深く考える機会になったという前向きなものが多かった気がします。
自己紹介のあとは、ブレイクアウトルームに分かれて、いよいよ本についての話です。
【AI vs 教科書が読めない子どもたち】
この本は東ロボくんというロボットを使って、東大入試の突破を目指すというプロジェクトから得た知見により書かれた本です。
前半の第1章、第2章はAIで何ができるのか?何ができないのか?というのが非常にわかりやすく説明されています。
先に結論から話すと、東ロボくんは東大には入れませんでした。これはAI特有の問題があり、AIは世の中で言われるほど万能ではないからです。
では、このプロジェクトを通して、より深くAIの得意が不得意がわかったところで、AIに仕事を奪われるというメディア話は現実的なのか?というと、今の教育のあり方のままだと、決して大げさではない…という話が、後半の3章、4章となります。
【AIにできること/できないこと】
まずは、前半から。
参加者の皆さんからは、「結局は、AIというのはこの程度のことしかできないのか?というのがこの本を読んでよくわかった」というお声が多く、「メディアの書き方だとAI万能論のような印象を与えていることが多い気がする」という意見や、「設計するのも良し悪しの判断もするのは人間なのに、あたかもAIが判断できるようなイメージもある…」というような話も出る一方で、
「でも実際問題として、東ロボくんというのは、すでにMARCHに入れる学力を兼ね備えていて、AIができないことが自分ができるのか?、と冷静に考えるとちょっと危機感もある」‥というお話も。
この本で何度も出てくるの、AIは内容を理解しているわけではなく数学的に処理しているだけというのが理解できるとAIに本当に理解できることと、できないだろうと予測がつくことが見えてくる気がします。
「AIは結局統計処理なのである一定の確率で外れるということが世の中で理解されていない気がする」というご意見が読書会でも出ていましたが、本当にそのとおりだと思うのです。
元になるデータ(教師データ)を大量に用意することができるものというのは、実はそれほど多くないことがこの本にもわかりやすく説明されています。
さらにいえば、結局のところそのデータに基づく結果の良し悪しを判断するのは、人間が決めなくてはならないわけです。なにもないところからデータだけを見て、AIが判断しているわけではありません。(そもそもどのデータを使うかも人間が判断しているのです)
あなたの職場に怪しげなAIツールをあたかも万能ツールのように売り込みにくる営業がいたら、少しこの点を考えるだけで振り回されずに済むのではないかと個人的には思っています。
仕事で見ていると結構多いんですよ。
それって、業者のAIツールの精度を増すために、教師データを渡すのにお金取られるという話では?
今、そのツール導入しても精度かなり低いですよね?みたいなの…。
【なくなる職業、なくならない職業】
今回の読書会では、参考図書から以下のようなリストもご用意して配布しました。
よく見ると、AIの問題ではなく、需要や他の技術の進化の問題でなくなるのでは?という職業や、すでに無いのでは?というものや、そもそもこんなの日本でないのでは?というものも入っており、これはこれでツッコミどころの多い資料でした。
この表を見ると心を使う仕事やコロナ禍で話題となったエッセンシャルワーカーと呼ばれる仕事は残りそうですね、という一般的な話から、参加者の皆さんが、普段の自分の仕事から見て、これはこの部分はAIに代替されるが、結局ここは残るだろうという話まで、興味深いご意見がたくさん出されました。
【教科書が読めない子どもたち‥という問題】
「山のようにある情報にすべてあたっていくことがAIなら可能。ただし、そこから導き出された答えが正しいかそうでないかの判断はAIにはできない 判断ができる人にならないといけないし、作らないといけない」という意見が出ました。
まさにその通りなのですが、実は今の日本の教育はAIと同じ弱点をもつ人材を作っているというのが、この本の後半の話です。
結論から先に書いてしまうと、AIは文章が読めません。東大に合格できない理由もここにあります。
だとすると文章を読んで理解できる人間がAIに仕事を奪われることはない‥という結論を出したいところですが、実は私たちはこれまで当たり前のように理解していたはずの文章が読めなくなっているというのが、この本の後半部分です。
ようはこの上記にあげたスライド「AIが論理的に文章が読めるようになるには?」に挙げられていることが、できない人が増えているということです。なぜそんなことがおきているか‥、それは教育(具体的には入試問題)が暗記して素早く答えることを重視してきて、自分の頭で仮説を立てたりじっくりと考えるという機会を減らしているからと言えるようです。
後半については、実際に自分たちが学生時代どういう勉強をしてきたか、自分の子供や孫が今、どういった勉強しているのか?それから自分が仕事として子供を教育しているという立場から、どういったことが言えるのか?など本当に活発な意見がやり取りされました。
教育業界ももちろん色々と手を打っており、特に私立校は自分で考えさせることやチームで議論をすることを推進したりというような教育方針を打ち出しているところもあるようです。
一方で公立の学校は、親への対応や地域への対応なども多く、勉強を教える以外の仕事が多すぎる問題なども抱えています。
自身が学生時代に読解力を試させるような授業を受けた記憶や試験を受けた記憶がないという話もでてきました。
今はこういった状況を鑑み、大学受験も知識ではなく読解力を問う問題を増やしたり、文科省も危機感を持っているというお話から、選択問題も選択肢を1つではなく、正解をすべて選ぶ形にすれば採点の負荷を高めずに済むのでは?といった、かなり具体的な話なども飛び出してきました。
お話のなかで、それでもなくともコンテキストが通じないな‥と思う人材が増えているなかで、文章でも共有ができない‥というのは、組織ではかなり頭の痛い問題になりそうだ‥というご意見や、AIにできない察する能力のようなものはもっと重要視されていくだろうに、ますます弱まってきているような気もする‥という日々の職場からみたご意見なども見られました。
では、実際どうしていけばいいのか?という話では、
「何をどうまとめたら、自分は俯瞰しやすいか・ディテールも含めて理解しやすいか・スキルが身に付くかを公教育のどこかで全員がトレーニングを受ける必要があるのでは?」
「この本にも出てきたが良い本を繰り返し読むのも良いのでは?」
というようなお話もありました。
まずは自分はきちんと読めていないのかも?子供は本当は読めていないのかも?とチェックして見るだけでも少し何かが変わってきそうな気がします。
【読書会全般についての感想】
- 「ブレイクアウトルームは話が深まっていい。それぞれの立場から1冊の同じ本をどう読むかが話せるのが面白い。結局どうする?という結論はないですが、どうなんだろう?」
- 「昔より仕事の量と質が増えている。AIにどんどん渡していく過渡期なのか?過渡期が過ぎると余裕が出るのか?そうなるといいなぁ。寄付のはなし、支援がどんどん増えるといいなぁと思います。」
- 「共通の出身地の方がいて、大変盛り上がったレイクアウトルーム。本の話だけでなく、どう生きていけばいいのか?みたいな話がきけて、話せて面白かったです
- 色んな意見がきけて面白かった。特になくなる職業、なくならない職業の話など、面白かった。教育コーディネーターみたいな仕事が重要になり、残りそうな気がする
- どうやったら人の能力は伸ばせるのか?AIを活用することでもっと楽しい仕事ができるのでは?どうやったら読解力をあげるか?などいろいろなポイントが詰まっていて良い本だった。
- 主役になる。身につまされる、自分がやらなきゃいけない・・となると、読解力が上がるのではないだろうか?
- ほぼ日の糸井重里さんの話にあるように、自分が何をしたいのか?人生のメインテーマ 価値をどこにおくか?これができる人はAIがうまく活用できて、お金を稼ぐこともできるのでは?
- 英語の身につけ方 耳から理解→イメージ カラオケと一緒?などいろんな話が出て面白かった。五感を使うのが人間の学びで、そこがAIとは違うところかもしれない
【全体を通して】
第9回のサードプレイスもたくさんの活発な意見が出た非常に面白いものでした。自分だけだと気づかなかった点が皆さんの話を通じて見えてきたり、また自分も話をすることで色々と考えていたことが深まったりと、読書会のならではの読書体験、皆さんにもお楽しみいただけたら何よりです。
読書はインプットですが、こういった場で話すアウトプットも深く読むには大切かもしれません。
参加者からも2021年は、本の読書記録をつけてその感想などを簡単にでも残していきたいというお話もありました。
2021年もたくさんのことを考えるきっかけになる本を取り上げていきたいと考えています。
本が好きな方、なかなか読み通せない方、これからあれこれ読んでいきたいと思っている方、ぜひ遊びにいらしてくださいね。
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